昨日の模写絵師とやらの謎騒動。そもそも模写というのものに対して勘違いがあるのではないだろうか？ということでその辺について言及してみようと思う。
まず第一に、美術の世界などでいう模写とアニメや漫画のキャラの模写は全く違う。
美術の先生は模写を推奨するけどそれとはまったく違う。
例えば美術館で有名な絵画を模写するなどといったことは日本ではあまりないが、海外の美術館では結構ある。逆に言えば日本では芸術分野で言うような模写は行われていない。存在してないのに等しいといっていい。
これに近いのはデッサン、もしくは写真を元にした絵画の作成だ。
絵が上手くなるためのものに関して言えばデッサンが近い。
もっと近いのは中国で行われている美大生などを雇って有名絵画の贋作製作の工場なんだが・・まあ除外しよう。
だがアニメの絵やイラストを模写するというのはお金貰わずいいねをもらう中国贋作工場の工場員になるってことなんだ。
ということで美術の先生などが言う模写とアニメ絵の上手くなる練習としての模写が違うことを理解してもらったとして次のステップ。
第二に何のために模写するかだ。
ハッキリ言っちゃおう。速く描くためだ。
アニメは当然速く描けなければ仕事にもならない、ゲームの２D系もそうだ。漫画は少し違うと思うかもしれないが、速く描ければその分ストーリー制作に凝ったり、よりレベルの高い画面作りも出来る。
じゃあ速く描くにはどうしたらいいか。模写する？
不正解。
たくさん描くだ。
じゃあたくさん描くにはどうしたらいいか？そこで模写するという選択肢が出てくる。
私が前に短い期間ながら専門学校の講師をやっていた時に、10分模写というのを導入したことがある。
コピー用紙の半分にアニメの原画などをコピーして、その横にある空白の生徒に描かせる。10分間で。あれ？5分だっけ？とにかく短時間でアニメ的な絵を模写するというやつだ。
終わった後ちょっと描くコツ・・というか特徴のとらえ方などを簡単に解説するなんてことをやってみた。
ゲーム学科の生徒向けでいまいち上手くなる効果が感じられなかったのでやめたんだけど、ここで覚えてほしかったのは10分とかの短期間でいかに特徴をとらえて描くかだ。
生徒の中にはグリッドを引いて模写する学校の美術で習ったらしい模写方法をやってた子もいた。
正直否定したかったけど、制限時間内で描くための工夫なのでとりあえずノーコメントでほっといたけど。
そう。制限時間・・・短い間に描くための工夫なんだ。
模写ってのは魅力的なキャラクターやかっこいいレイアウト・・・そんなものを考える必要がない。
上手く描けてないなと思っっても消しゴムをかけてる時間がもったいない。
速く沢山描くことでどんどんうまくなる。だがそれには考える必要があるってことだ。
グリッド描いてこの辺とこの辺が繋がってる線を引く・・・なんてただの劣化コピーだ。そんなこと人間がやる必要はまったくない。
そして第三として似せるコツを知識として自分で気が付いて蓄えること。
ちょうどハコヅメという漫画原作のアニメで犯人の似顔絵を描くエピソードがあった。
そこで老けさせるにはどうしたらいいだろう？と絵の素人が悩むシーンがある。ほうれい線入れればいいんじゃない！とツッコんだりするんだが、顎をたぷたぷさせるという言葉を引き出す・・・なんてシーンがある。
このキャラ・・”なんかかわいくない”～～なんて時に自分にとってかわいいキャラのイメージを自分で考えながら引き出す作業が必要だ。でもそれって絵の初心者には難しい事だったりする。
でも模写をやってて、”何か似てないな”～～って時に、その正解が模写の場合は常に隣にある。分からないはずがないんだよ。
そういうのを積み重ねていくうちに、かっこいいキャラを描く、かわいいキャラを描く、オッサンやメカを描く・・・そういう技術が身についていく。
最後に第四の要素としてそういった自分が得意でないジャンルの絵の習得という意味がある。
可愛い女の子描くのは大好きだ！といっても漫画を描こうと思ったら苦手なキャラも描かなきゃならなくなる。ゲームの業界に就職したらある程度のポートフォリオの得意ジャンルを考慮してくれるかもしれないが苦手なものを描かないで済むなんてわけじゃない。
苦手なジャンルの克服のために描こうと思っても結局上手く描けない・・・そんなときにこそ模写をするってことになる。
～～～こんな感じだ。理解できただろうか？
ちょっと別枠っぽいが、これらの能力向上にはいわゆるデッサン力が必要になってくる。いわゆるデッサンの練習って難しいとは思うけど、これもアニメキャラのフィギュアなどを目の前に置いて描く・・・というデッサンもあるぞ。これも本来の美術におけるデッサンと意味がかけ離れてきてしまうが、モノを立体としてとらえる練習にはなるはずだ。
とにかくだ。
他人の作品をそのままマネするな。マネしたものは発表するな。
下手でもいい。まずはせめて二次創作を出来るようになって欲しい。